罪人 Toga-bito
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【背景】 彼は強い。自分より剣が。 彼は強い。自分より心が。 彼は強い。なによりも優しい存在。 彼はいつもそばにいてくれた。 彼は一番の親友だ。自分にとって。 ある年、戦がおこった。 もちろん彼は戦に出たし、自分も彼とともに在った。 戦場に修羅が出た。 強い修羅だ。 彼に似ていた。 気付くと修羅はたおれていた。 気付くと彼がいなくなっていた。 おかしい。 国に戻ると、彼の家族が葬式をしていた。 “誰が死んだのだ?”と問うと 皆、“彼が”と答えた。 皆、『何故そんなことを問う?』という顔をした。 彼は強いのだ。死ぬはずがない。 “修羅と化した彼をたおしたのは自分じゃないか” と、皆が言った。 おかしい。 彼は強いのだ。修羅になるはずがない。 彼は強いのだ。自分がたおせるはずがない。 ここに彼の刀がある。 おかしい。……忘れていったのか? おかしい。……なぜ彼がいないのか? ……自分は旅に出た。彼を捜しに。 そして、こう問おう。 “なぜ帰らないんだい?” 今日も旅をしている。 おかしくなった世界を……彼のいない世界を、元に戻すために。 |
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